M&Aや経営のバトンタッチで一番大事な能力を知っていますか?

M&Aなり、事業のバトンタッチを受けるなりしようとした時、まず最初に必要な力は何か? 言われたら、いの一番に上がるのが『決算書が読めること』です。 

どんなに小さくてもその事業を一番端的に表しているのは『決算書』です。

 だから決算書が正しく読めないのであれば、その事業の中身を把握することはできない訳ですね。 

さて、問題はこの『決算書を読める』というのはどういうことか?

今日はそんなお話です。


 ☆ ところで、決算書には2種類あるって知ってましたか? ☆ 


さて、まず最初に一番大事なことなのですが、M&Aなり経営のバトンタッチなりの大前提となることは、実は『決算書は必ずしも正しい会社の中身を表していない』ということなのです。

 ちょっと会計の知識のある人なら、ええ!それって粉飾決算じゃないの?と思うかもしれませんが、そうではありません。 

たとえ正しい決算をしていたとしても、というか、正しい決算をしていればこそ、『必ず決算書と会社の実態は異なる』のです。 


それは一体それは何故でしょうか?

 その答えは、『会計基準』の違いにあります。

 会計基準とはとてもザックリいってしまうと、決算書を作るための、決まりごとのようなもの。

 この決まりごとは、とても沢山あるのですが、大きく分けると『税務会計』と『財務会計』の2つがあると覚えておけば間違いありません。(企業会計原則にはもう一つ管理会計というのがありますが、中小企業のM&Aの世界では優先度は劣るのでここでは説明しません、念のため)

 

さて、では『税務会計』と『財務会計』の違いは何か、ということですが、これまたとてつもなくザックリいってしまうと、『税務会計』とは、基本的に税金の金額を正しく計算できることを目的に決算書をつくる為の決まりごとのこと。

一方『財務会計』は会社の現状を対外的に正確に報告することを目的に作る決算書作成の決まりごとだと考えたらいいでしょう。


 目的が違うので、お互いに提出する先も異なります。

 税務会計の決算書は税務署に、財務会計の決算書は、主に上場会社などが金融商品取引法に則り決算報告書を開示するために使われます。

 つまり、日本の中小企業のほとんどは税務署に提出する為に決算書を作っていますから、基本的に申告する税金の金額は正しくても、会社の実態を正確に表していないということになるわけです。


 ☆ まず本当の貸借対照表を考えよう ☆


 中でも一番問題なのは、会社の貸借対照表です。 

貸借対照表とは資産と負債を対比し、差し引き正味どのくらいの純資産を会社が保有しているかを表した表ですが、その数字は大抵実態とはかけ離れています。

 例えば、税務会計の世界では、土地は何十年前に買ったものであっても、購入した金額がそのまま記載されていますから、決算書には実勢価格とはかけ離れた金額が記載されいてことがほとんどです。 

また建物や機会は一定の基準で減価償却された価格で、実際にいくらで換金できるかは勿論、本当に使っているのかいないのか、今から買うより引き継いだ方が得なのか、あるいは引き継ぐだけ損なのかはわかりません。 


特に土地や建物などは維持するだけでも、固定資産税や様々な維持費用が発生します。

 この手の物件の価値を維持するための費用のことを専門用語でCAPEX(キャペックス)と言いますが、モノによっては購入費用よりCAPEXの方が大きくなる物件などザラにあります。


 例えば、私が見たあるホテルは約200億円かけて作られたものですが、年間の固定資産税と維持費用が8億円以上に上り、耐震費用など今後の修繕費だけで軽く30億円以上という代物で、タダでも高いと言われていました。(実際には1億円であるファンドが買収しましたが) 

建物や機械、あるいは車両などそうなのですが、あと何年ぐらい使えるのか、いわゆる耐用年数を考えて、実勢価格を考えるのが普通の商売の常識で、この辺りが決算書上の数字とは、大いに異なるのは当たり前のことなのです。

 

また機械や備品は最近はリースにすることが多いのですが、このリースも厄介な代物だといっていいでしょう。 

というのは、例え何百台の機械や車両があろうとも、税務会計で作られた決算書には、リースは貸借対照表のどこにも表示されないからです。 

大抵のリースは、損益計算書の『賃借料』という勘定に記載されるので、決算書だけみても、その会社にどのくらいの設備があるかは分からないのが普通です。 


又もう一つ厄介なものに、『退職金』があります。 

退職金は社員が退職したときに会社が支払う慰労金ですが、社員がいつ辞めるかはわからないので、会社は予め保険や共済に加入してその原資を積み立てたり、あるいは会計上引き当てをしたり、最近では適格退職献金などを使って、社員が積み立て運用をした範囲内で支払うなどの手段を講じています。 

問題は、どんな方法にせよ、退職金原資全額が決算書に記載されているとかぎらない、ということです。 


このように決算書に記載されていないけれど、何かのタイミングで支払わなければならない義務のある債務を、『簿外債務』といいます。

 退職金は、典型的な簿外債務の一つですね。


 このような簿外債務に加え、他人の借金の保証履行や脱税、裁判での敗訴など帳簿には記載されていない予期せぬ支出、これを偶発債務と言いますが、こうした所謂『隠れ負債』は中小企業には非常に多いものなのです。 


更に言えば、帳簿の世界では貸借と損益は必ず連動しています。

 従って意図的に負債を減らしたり、資産を増やす操作を行えば、必然的に利益があがるという決算書を作ることができます。

 これが『粉飾決算』です。


 因みにこうしたことは『財務会計』を採用している会社では滅多に起こりません。

 それは仕組み上税務会計と比べ財務会計は、企業の実態を表すのに最適な仕組みになっているということが根本にありますが、加えて株式を上場している企業になるとこうしたことをきちんと記載しない決算書を作成すれば、投資家を騙したことになり、最悪犯罪となってしまうからです。

極端な話を言えば、ある日東京地検特捜部がきて社長が逮捕されてしまう、ということさえ起こり得ます。 

よく、『粉飾決算で上場会社の社長逮捕』と新聞を賑わすのが、これです。 


逆に中小企業の場合は、『財務会計』を採用しておらず、『税務会計』を採用していますので、粉飾決算をした場合、来るのは東京地検特捜部ではなく、所轄の税務署、ということになります。

これはこれで大変なのですが、 別に意図して粉飾しなくても、一度や二度は税務署のお世話になった方は多いでしょう。

いかに正確な決算書を作ることが難しいかよくわかりますね。


 ☆ 経営のバトンタッチは時価評価の世界、自分でわからなければ必ず専門家に相談しよう ☆ 


まあ、それはともかくとして、要は『税務会計』を採用している中小企業では、決算書は必ずしも会社の実態を表していません、というか、それがごく一般的だということです。

 従って、M&Aや経営のバトンタッチの世界で『決算書が読める』というのは、単に簿記ができる、ということではないのがわかるはずです。 


そうです、それは『税務会計の会社の実態を見抜ける=貸借、損益の時価評価ができる』ということなのです。


ここで、もし、今まで私が書いたことがよくわからないのであれば、『絶対に』一人でM&Aや事業の引き継ぎをしてはいけません。 

必ず、信頼できる専門家のアドバイスを受けてください。 

多くの人は誤解していますが、アドバイザーの最大の役割は、価格や条件の交渉をする事ではなく、実は相手の正確な内容を見抜き、リスクの回避することであり、自分がわからないこうした点をきちんと説明してくれるから、専門家の専門家たる所以があるわけです。

リスクヘッジを考えれば、これを活用しない手はないのです。


 貸借、損益の時価評価は、M&Aや経営のバトンタッチの一丁目一番地です。


 M&Aの世界で、そうした能力を持たない素人の生兵法はとても危険です。

 逆に言えば、&Bizが全国に例のないほどの大勢の専門家を用意しているのは、素人の方でも安全な取引を実現するために他なりません

 是非専門家を有効に活用して、相手の会社の『時価』を把握し、安全で賢い経営のバトンタッチを実現してください。