【新連載】トラブル王が語るM&A失敗談 ①和をもって尊しとはせず

今日でブログ開設から一月がたちました。


出来たばかりの企業ブログとしては、無事それなりのアクセスもありまして、まずは一安心。

こんな場末の新設企業ブログに来ていただいた皆様には本当に感謝することしきりです。


因みに、ダントツ人気NO1は、一昨日のコラム『何故、イスラムはいつも悪役なのか?』

しかも他の記事5倍以上のPVという圧倒的人気。

業務内容とは全く関係ない記事が一位とは・・・・えーと・・・ここは一応企業ブログなのですけど・・・・。


ついでに言えば、『失敗しない経営のバトンタッチ講座』などの実用系コンテンツは軒並み不調。

どうも、私には真面目な解説記事を書く能力が決定的に不足していることが、白日の下に晒されている感がありますが、やはり社員達の手前、それはそれで問題もありますし、やはり知ってもらいたいことは知ってもらいたい。


やはり、ここは実用記事も読んでもらう努力もせねばならぬ、ということで、決めました!

上から目線の講座とかは辞めて、恥を忍んで、私が経験した、というか端的に言えば、やらかした諸々の失敗のお話をさせていただくことで、皆様が失敗なく経営のバトンタッチができるようにしようという企画、


名付けて、『トラブル王が語るM&A失敗談』!


なんとなくヤバげなタイトルですが、正直言って27年もやっていると大抵のトラブルは経験しているものです。

それどころか、私の場合は、どういうわけかトラブルの地雷を踏みまくり満身創痍で27年過ごしてきたと言ってもいいくらい。

そんな訳で、自分が痛い目にあったきただけに、処方箋は大抵知っていると前向きに捉えていただけると恥を忍んで過去を暴露する甲斐もあるというものです。


さて、記念すべき第一回は、あるレストランを巡って、売り手買い手を泥沼の大喧嘩に導いたある失敗についてお話ししましょう。


☆ 意気投合!友好的M&Aゆえの大失敗 ☆


舞台になったのは横浜のあるエスニックレストラン。


売り手が経営するレストランに、ある食品製造会社がジョインして、一緒にチェーン展開を目指す!といういたって前向きなお話で盛り上がっていました。

売り手としては、この食品製造会社をセントラルキッチンとして使うことで、原材料費を大幅に抑えることができ、買い手の方も下請けから脱し、安定した供給先も確保できるということで、第1回目の面談から両社長が意気投合。

お互いに山登りが趣味ということで、ついでにそっちも盛り上がり、傍目から見ても、この二人ならきっといいパートナーになるだろうな、と感じるほど。

最終的には、お互い共同経営して拡大していこうということで、売り手の株の一部を買い手が引き受けるとともに、事業拡大資金として増資も行い、最終的に『株式をお互い半分づつ保有』することになりました。


しかし、今から思えば、お互いの友好的ムードのあまり、その『友情』に水を刺したくない、と考え、この話を進めたことが、私の大失敗の元だったのです。


☆ 暗転!一年ぶりの電話の内容とは・・・ ☆


それから一年後、突然買い手から電話がありました。至急本社まで来て欲しいというのです。

数ヶ月前に新店舗を出店したとの話を聞いていましたので、更にもう一社M&Aでもするのかな、と脳天気な気分で行ったのですが、話は全く逆でした。

売り手と大喧嘩をした挙げ句、お互いに経営権を主張しあって、『会社は麻痺状態』になっており、この話を仲介した手前、私になんとか解決をして欲しいというものだったのです。

もちろんその足で、売り手のところにも行ったのですが、こちらも全く同じ。

お互い違うのは、喧嘩の原因が相手にある、ということだけです。

どうも元々新店舗の立地をめぐる些細な言い争いが仲違いの発端だったようなのですが、そこから数ヶ月が経ち、両者の間はほぼ修復が不可能なくらいの関係性になっていました。


この瞬間、私は自分の過ちを悟りました。

お互い人間ですから、仲違い自体は仕方ありません。

しかしそれが『会社が麻痺』する事態にまで発展した理由に私は心当たりがありました。

それは、『株式をお互い半分づつ保有』することにしたからに違いのです。


ここで、株式の持つ権利についてお復習いしておきましょう。

色々細かいところはありますが、非常に大雑把にいえば株式のルールは3つです。

① 『株式の3分の1超をもっている者は ”重要な決議事項” への拒否権”をもっている』

② 『株式の過半数を保有している者が ”会社の経営権”  をもっている』

『株式の3分の2超を保有している者は ”会社の所有権”  をもっている』


このケースではどうでしょうか。

売り手買い手は当初非常に友好的な関係で、お互い共同経営しようと、株を半分ずつ保有することにしていました。

ということは、お互い3分の2はおろか、どちらも”過半数”をもっていない、つまりどちらも『会社の経営権』をもっておらず、『拒否権』だけをもっている、という状態だったということなのです。

要するに、取締役会では、どちらも自分の主張を通すことができないわけですから、両方の意見が対立すれば、会社は何も決めることができなくなってしまう、ということなのです。


☆ 1%違いで大違い ☆


これが51%と49%なら、少なくとも51%を持っている側は、相手の意向にかかわらず会社の通常の意思決定(一般決議と言います)をすることができますから、経営権自体は揺るぎません。

一方的に決議することができないのは、定款変更、取締役・監査役の任期途中での解任、会社の解散、合併、事業譲渡、減資など、主に会社の所有権に関わる事項(特別決議)だけです。

思えば、たとえ共同経営であったとしても、両方の意見が相違した時、最後にどちらが責任を取って経営を行うのか、決めておくべきだったのです。

その場の雰囲気に流されて、”いざという時”の想定をキチンとしなかった私のアドバイス不足がこのような結果を招いてしまったのでした。


1%の保有分の差はこれほどまでに大きいものなのです。


結局、このM&Aは長い裁判の末、互いに店舗を数店舗ずつ分け合う、いわば離婚の様な形で幕を閉じました。

私にとっても、最初の意気投合ぶりを知っているだけに落胆が大きく、これが大きな教訓となって。以後20年以上、半分づつ株を保有して共同経営をしたいという案件は全てNoと言ってきたほどです。


人間というのは、お互いハッピーで、相手を信頼し、相手のことを慮っている時ほど、最悪のことを意図して考えない様にするものです。

しかし、最良の時にこそ、一方で最悪の想定をして備えをするのが、もっとも大事だという事を思い知ったのがこの案件でした。


株を半分づつもって共同経営を、という志は美しくても、必ずしも和をもって尊しとなす、という場合ばかりではないのが、M&Aや事業のバトンタッチの世界なのですね。