【連載】失敗しない経営のバトンタッチ講座 第一回『絶対チェック!社会保険と労働保険』

会社であれ個人事業であれ、他者の事業を引き継ぐというのは、やはり色々な不安があるという方も多いのではないでしょうか。 

特に引き継ぐ以前のことが分からないというのは誰しも不安なものです。

もし引き継いだ後、思わぬトラブルに見舞われたらどうしよう、と、どうしても二の足を踏んでしまうというのは、特に初めての方には無理からぬことでしょう。


 本来、そうしたリスクヘッジのために存在するのが、M&Aの専門家です。

ただ、高い専門知識や実務経験、ハイレベルのスキルを持つ専門家というのは、まあ当たり前と言えば当たり前なのですが、それなりのお値段がするのも又当然のことです。

M&Aでのトラブルというのは一歩間違うと会社を傾かせかねない重大な事態になることもありますから、費用や手間暇を惜しんで後日重大なトラブルを招くより、転ばぬ先の杖でしっかりした先に依頼するのも肝要なのです。

私自身も、日頃は、ある程度の規模のM&Aなら、きちんとした上場仲介会社や投資銀行などレベルの高いアドバイザーへ依頼することをお勧めしています。


とは言え、多くの小規模企業のバトンタッチ程度では、そこまでするのもオーバースペックというものです。 

そこで&Bizでは地方の会計士や税理士、金融機関などの専門家ネットワークを活用して、可能な限り気軽に、且つ安価なバトンタッチを実現している訳ですが、それでも100%トラブルに無縁ということにはなりません。

やはり後日トラブルになりそうなポイントについては、経営者自身がある程度の知識を持っておくに越したことはないのも事実なのです。


さて、 今だからこそ言えますが、私は素人同然のところから27年間M&Aのコンサルタントをしてきた為、およそ考えられる大抵のトラブルは経験してきました。

 勿論専門家としては、全く褒められたものではないのですが、その分素人の方が陥りやすいポイントは熟知していると言っていいかと思います。 

そこで、このブログでもこれから数回に分けて『失敗しない経営のバトンタッチ講座ーこのトラブルに要注意!』と題してせっかくの経営のバトンタッチが、後日トラブルで失敗しないよう、本当の勘所をレクチャーして行きたいと思っています。

 この手の勉強ものの宿命として、少々難しい話も出てきますが、分からないところはお気軽にご質問くださいね。 


さて、記念すべき第一回は、恐らく小規模企業のバトンタッチのトラブルNO1『社会保険・労働保険の未払い』についてお話ししようと思います。


まずそもそも 社会保険とか労働保険とは何か、ということですが、社会保険とは”厚生年金保険”及び”健康保険”のこと。
労働保険とは”雇用保険”と”労災保険”のことを指します。 

社会保険は、個人事業の場合は、5人以上、法人の場合は従業員の数に関わらず(役員含む、パートアルバイト含まず)従業員の雇用をしていればがあれば適用事業者となり、そこで働く従業員の所定労働時間が週30時間以上、又は週20時間以上で一定の要件を満たす場合、必ず加入しなければなりません。 

 労働保険の場合は、雇用者(含むパート・アルバイト)が一人でもいれば加入が必要です。 

このあたりの要件はちょっと複雑で、しかも頻繁に変更があるので、詳細はその都度政府のホームページや社会保険労務士さんに確認したほうがいいのですが、問題は仮に社会保険の未加入や未払があった場合は、過去2年間に遡って支払いが必要になるということなのです。


ここがトラブルの勘所です!


 例えば経営をバトンタッチした社会保険加入義務のある事業者が10人のアルバイトを雇っていて、毎月それぞれ15万円のアルバイト代を払っていたとしましょう。 

このケースで2年社会保険料を遡れば、一人当たりだいたい100万円程度、総額で1,000万円にもなってしまいます。 

社会保険は労使折半が原則なので、本来は会社負担は500万円の筈なのですが、アルバイトから過去に遡って多額の金銭を請求できることは滅多になく、結果的に会社が従業員分も含めて負担することは珍しくありません。 


更に労働保険の場合はもっと悲惨です。

労働基準監督署から課徴金が求められることが多い上に、労災未加入の状態でもし労働災害が発生した場合は、国からの支給額の大半をその事業者が支払う必要さえ出てきます。
勿論、従業員にとって不利益になることをしていた訳ですから、労基署の厳しい指導や、最悪従業員から民事上の裁判を起こされても文句は言えません。 


本当に、事業を引き継いだ瞬間、こんなトラブルに巻き込まれたら、まさに踏んだり蹴ったりですね。

やっぱり、ちょっと怖い、と思われた方もいるかもしれません。

  

実は有る程度の規模の企業であれば、この手のトラブルは滅多にないので、あまり心配することはまないのです。

 ところが、注意すべきは、小規模企業の場合は全く逆だということです。

どういうことかというと、 そもそも経営者にこの手の知識が無い上に、従業員の方もとりあえず目先の手取り額を多くしたいと願い、事業者側も一銭で支払いを少なくしたいという思惑から、給料から社会保険料や労働保険料を意図的に控除しないというケースが時折見られるからなのです。

これが外国人を雇用している場合はもっと顕著でして、どうせいつか帰国するのだから、年金保険は加入するだけ無駄と考え、加入を拒否することも決して珍しいことではありません。 


しかも悪いことに、社会保険、労働保険の未払いのトラブルというのは、小規模企業特有のことの為、経験豊富なアドバイザーであっても、小規模企業の経験がないと、まさかそんなことはないだろうと見逃すことが稀にあるのです。

小規模企業のバトンタッチのトラブルNO1、というのは要はそういうことです。


でも、トラブルの勘所の一つがわかった貴方はもう恐れる必要はありませんね。


つまり、

『小規模事業のバトンタッチでは、必ず社会保険、労働保険の未加入、未払いがないかチェックしよう!』 

ということです。

勿論、ご自分ではわからない方でも、アドバイザーに予めチェックをお願いしておけばOKですから心配はいりませんよ。 


このように、正しい知識を持っていれば、トラブルのない経営のバトンタッチが実現できる可能性がさらに高まるのです。


さて連載第二回は代表的なトラブルNo2とも言える『CoC(Change of Control)』を取り上げようと思います。


また次回をお楽しみに。