【連載】失敗しない経営のバンタッチ講座 第二回『CoCにはご用心』

もしあなたが経営のバトンタッチを受けた飲食店が、突然大家さんから『賃貸借契約に違反しているので、退店してほしい』という通告が来たらどうでしょうか? 

せっかくこれから頑張ってお店経営して行こうという矢先、こんな通告が来たら目の前が真っ暗になるに違いありませんね。 

しかし、実はこれはM&Aや経営のバトンタッチでよく起こるトラブルの一つなんです。

その名も『CoC(Change of Control)条項』に関するトラブルと言います。 


難しい横文字は兎も角、一体このケースは何が問題だったのでしょうか?

 実はバトンタッチした会社と、店舗を貸してくれている大家さんとの賃貸借契約に以下のような条文があったのです。

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(禁止事項)第15条 

乙は次の各号の行為をしてはならない。

 (1) 本物件の賃借権の全部若しくは一部を、第三者に譲渡し、又は担保の用に供すること。

(2) 本物件で行う事業の全てを第三者に委託することや、第三者と共同経営することなどにより、本物件の一括転貸に類する行為を行うこと。

(中略)

(5) 株式譲渡、商号、役員変更等により、実質上本物件の賃借権の譲渡又は転貸とみなされる行為をすること。 甲又は乙が以下の各号のいずれかに該当したときは、相手方は催告及び自己の債務の履行の提供をしないで直ちに本契約の全部又は一部を解除することができる。なお、この場合でも損害賠償の請求を妨げない。

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なんだか難しい条文ですが、要は事業を他社に委託したり、共同事業にしたり、あるいは同じ会社であっても株の譲渡などによって、経営を他の人に移したりしたら、賃借契約を一方的に解除できる、と言っているわけです。 

これを法律の世界では、チェンジオブコントロール条項だとか、支配権移動条項だとか資本拘束条項とかと呼びます。 

要は実質的に契約主体の内容が変わったら、契約は破棄するぞ、ということですね。


小難しい言葉はどうでもいいのですが、問題はこの条項が、実は契約の世界では結構ありふれた文言だということです。 

しかもこの手の条文は色々なバリエーションが存在しており、うっかり見逃してしまうことも珍しくはありません。 

例えば、販売先・仕入先との取引基本契約とか、FC,あるいは代理店契約だと同じことが以下のように書いてあることが多いのです。


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甲は、以下の場合、催告及び自己の債務の履行の提供をしないで直ちに本契約の全部又は一部を解除することができる 

(1)乙株式の過半数の譲渡、事業譲渡又は合併等の組織変更により、乙の経営環境又は資本環境に著しい変化が生じたとき

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細かいことは置いておいて、大意だけ取れば前の賃貸借契約と同様で、要は勝手な経営のバトンタッチはまかりならぬということですね。 


さて、困ったことになりましたね。

この手の契約がポピュラーなら、やっぱり経営のバトンタッチは結構難しいのでは、と思われる方もいらっしゃるはずです。

 

実はここが又厄介なところで、この文言があったからといって、一方的に契約が解除できるかというのは、これはこれで法律的には別の議論で、実際には何事もなく継承できる場合も多いですし、例え問題になったとしても、賃料の引き上げなど条件交渉でカタがつくことがほとんどなのです。

 だから心配はいりませんよ、と言いたいところですが、それはそうとも言えないのが頭の痛いところで、実際には小規模企業のバトンタッチでは、トラブルの常連とも言える問題なので、決しておろそかにはできません。 


 ということで、それを踏まえて、今日のトラブル防止の為のノウハウです。 

 ① まず、賃借契約書、取引基本契約書、FCおよび代理店契約書が相手にあれば、上記のような”CoC(チェンジオブコントロール)条項”がないか確認しましょう。 

② CoC条項があった場合は、必要な契約なのか、相手とは良好な関係なのか、相手に事前に確認が取れるのか、あるいは確認することが問題ないのかどうか、そしてもしトラブルになったらどうなるのか、確認しましょう。

 ③ 契約前に相手とCoC条項がトラブルにならないため、事前に何ができるのか、契約後に何をすべきか確認しましょう。 

④ よく分からない場合は、①に関係ありそうな書類を持って、専門家に相談してみましょう。 


今回はちょっと難しかったかもしれませんね。 

しかしCoCはトラブルになると結構大事になる場合が多く、決して侮れないので、必ず心に留めておくようにしてください。 


次回は、小規模事業のトラブルを防ぐ上で、大きな見方になってくれる手法の一つ、『事業譲渡』について取り上げようと思います。

お楽しみに。