【コラム】 M&Aで買収された売春宿経営者が起こした!?「第一次世界大戦」

「パン、パン」 

1914年6月18日の日曜日。

サラエボの町は突然鳴り響いた2発の銃声に騒然となりました。


 一発はオーストリア=ハンガリー帝国フランツ・フェルディナント皇太子に、そしてもう一弾はその妻ソフィの胸に命中し、夫妻はほぼ同時に絶命したのです。 

犯人は過激セルビア民族主義者団体ツルナ・ルカ(黒い手)のメンバーである19歳の少年。 

そしてこの事件をきっかけに、オーストリアはセルビアに宣戦を布告しました。 


ここに史上最も凄惨な戦い、第一世界大戦の幕が切って落とされたのでした。 

 ・・・・というのが皆様ご存知の第一次世界大戦のきっかけとなったサラエボ事件のお話です。 


それはいいのですが、こう不思議に思った方はいらっしゃいませんか? 

”なんでオーストリアの皇太子がセルビア人に殺されただけで、関係ないドイツやイギリスが戦う世界大戦になるねん!?” 

まあ実際戦争になるにはいろいろな大人の都合や、不幸な偶然とかいろいろあるのですが、その一つとしてある人物の名前を挙げなければいけません。  

その名は”バジル・ザハロフ”  

そして彼の別名を ”第一次世界大戦を引き起こした男” といいます。


☆ 売春宿の経営者がM&Aで武器商人に? ☆

 

ロシア生まれのユダヤ人であるザハロフは元々しがない売春宿の経営者でした。

しかし彼が買収した企業が、どういうわけかイギリスの軍事産業大手ビッカース社に買収されたことで彼の運命は一転しました。 


なんだかんだでビッカースの取締役になった彼は、傍迷惑なことに持ち前の商才を発揮。

ビッカースの大株主ロスチャイルド銀行と組んでイギリスの首相ロイドジョージに取り入り、ロスチャイルド銀行がイギリスの公債を買う代わりにその50%を武器購入に当てる、という約束を取り付けたのです。


 更に ザハロフは当時発明されたばかりの機関銃に目をつけていました。

 ザハロフは機関銃の特許を持つマキシムに圧力をかけ、マキシムを買収してしまいます。

彼はイギリスのみならずヨーロッパ中にこの新兵器を売りまくり、更に造船大手のノルデンフェルドをも合併して、ヴィッカースをヨーロッパ第四位の軍需企業に仕立て上げたのでした。 


当時のヨーロッパはドイツのクルップ、イギリスのアームストロング(後にヴィッカースと合併)、フランスのシュネーデルがトップ3でしたが、ザハロフの魔の手はこの3社にも伸びます。

 彼は3社とひそかにカルテルを結び、相互に敵味方係りなく兵器を融通する協定を結んだのです。


 この死の商人のカルテルは致命的でした。 

対立国には相互に膨大な量の武器が流れ込むことになり、ヨーロッパの軍備拡張に歯止めがかからなくなったのです。

 特にザハロフは、各国要人を賄賂とハニートラップで手なずけ、敵味方問わず凄まじい量の兵器を売りつけました。 

驚くべきことですが、戦争が始まった後でさえ、彼は敵であるはずのドイツやオーストリアにも武器を売りまくっていたと言います。


☆ 死の商人のもたらしたもの ☆


 こうして第一次世界大戦が始まる前には、ヨーロッパ中にザハロフが売りまくった武器が溢れかえっていました。

かつてのないほどの軍備を蓄えた各国は、まるで巨大な弾薬庫そのもので、導火線に火さえつけば、いつ何時戦争が始まってもおかしくない状況にまで追い込まれていたのでした。


かくて第一次世界大戦は人類が体験したどの戦争よりも悲惨な戦いになりました。 

最初の一週間で使われた砲弾だけでも、日露戦争の全期間を通じた弾薬量を上回り、これらを供給した軍需企業は天文学的な収益を上げました。 

ドイツ兵器工廠が第一次世界大戦中にドイツ軍に提供したものだけでも、小銃93万丁、機関銃5万8000丁、砲弾1億1000万個にのぼったとされています。 


当然これらの武器による人的被害は、人類史上かつてない恐るべきものとなりました。 

ヴェルダンの戦いでは わずか100平方マイルあまりの陣地を巡って、3ヶ月でドイツ軍34万人、フランス軍37万人が戦死しました。 


太平洋戦争のガダルカナルの戦いの戦死者が全期間を通じて2万1000人、最後の決戦となった沖縄戦での全戦死者が6万人あまりなのと比べると、その悲惨さがどれほどのものだったか想像に難くありません。

 結局第一次世界大戦では 軍民併せて2100万人が戦死しました。

更にこの戦争による衛生状態の悪化はスペイン風邪の大流行を引き起こし、最終的にその死者は実に6000万人にも及んだといわれています。 


今年は第一次世界大戦が始まってから、ちょうど100年目に当たります。

昨年の世界全体の軍事費は1兆7386億ドル。

ザハロフの時代とは比べ物にならない量の武器が今や世界中に溢れかえっています。

どうも100年経っても、人類というのは早々進歩はしないもののようですね。